近年、親などの残した遺産を引き継がない「相続放棄」が増えています。
司法統計によると、平成23年に16万6000件だった相続放棄が、平成27年には18万9000件。わずか4年で2万3000件も増えているのです。
相続放棄というと、遺産の中に借金などがあるので、債務を引き継がないために相続しないというような理由が思い浮かびますが、最近では、様々な理由での相続放棄があり、それが件数を激増させているようです。
相続放棄をする理由とは?
故人の遺産の中に負債があるため
最も多いのが、この理由です。遺産には、預貯金や不動産、貴金属など「プラスの遺産」だけでなく、借金やローン、保証人になっているなど「マイナスの遺産」もあります。
遺産の相続とは全てのものを引き継ぐこと。もし遺産の中に負債があった場合、返済義務も負わなくてはなりません。この義務を負いたくないために、相続を放棄するわけです。
納税できない
遺産を相続した場合、国に「相続税」を払わなくてはなりません。もちろん、非課税分も法律で決まっていますが、それ以上の分については税金を払う義務があります。
現金を相続する場合は、その現金から相続税を除いた残りのお金が入ります。しかし、不動産を相続する場合には、相続税を現金で払う必要があります。この現金を用意できないために、相続を放棄するというケースです。
管理・維持できない
家族が遠方に住んでいる場合、もし実家の土地や家屋を相続しても、住んだり管理したりすることができません。物件を管理・維持できないために相続を放棄するケースも増えています。
これには、日本の高齢化社会が大きく関係しています。「空き家問題」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
ここでいう「空き家」とは、売りにも貸しにも出ておらず、定期的に利用されていない状態の家のことをいいます。この問題は、今後さらに増えていくと予想されていますので、少し詳しくみてみましょう。
所有者側の問題
空き家が発生する最も多い原因は、自宅を所有する高齢者が老人ホームなどの高齢者住宅や施設などに転居することです。その結果、家が使われないまま放置されているというわけです。
今後、団塊の世代を含めた高齢者は急激に増えていきます。それに伴い、空き家もどんどん増えていきます。
空き家の多くは、高齢者が住んでいた自宅です。その家には家族との想い出が詰まっているため、他人に貸したり売ったりすることに抵抗があるという人が多いのです。
また、現在は施設に入っていても、いつか帰りたい、最期は家で迎えたいという人も少なくありません。さらに、認知症などによって、利活用の判断ができなくなっている人もいます。
こういった理由から、子供たちから売却を勧められても同意しない高齢者が増えています。このようなことから、高齢者の自宅が、長期間、空き家状態になってしまうのです。
相続側の問題
相続する側である子供たちも、実家の利活用には困るケースが増えています。
核家族化が進んでいる日本では、子供が独立して遠方に住んでいるという家族は少なくありません。
実家を相続すれば、自分たちが実際に住まない家を維持・管理することになります。しかし、遠方から定期的に通って掃除などのメンテナンスを行うというのは、そう簡単にできることではありません。
また、思い出の詰まった実家を売ったり利活用したりすることに強い罪悪感を抱く人もいます。こういった理由から、空き家が増えているわけです。
しかし、家というものは、誰も利用しないと一気に傷んでしまいます。 老朽化が進むと、屋根や外壁など建材が剥がれ落ちたり、建物が傾いて倒壊する危険性が出てきたり、また、害獣や害虫の発生、庭木や雑草の繁殖により、近隣にも迷惑をかけるようになります。
そのため、平成27年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行され、行政からの指導や処分が行われることになりました。
このように、相続側が抱える問題は大きく、悩みながらも相続しないことを選択する人が増えているのです。
とにかく相続したくない
家族や親族間での折り合いが悪いために、相続自体に関わりたくないからと相続を放棄するケースです。
実家の相続について兄弟の間で売却するか否か揉めた結果、誰かが権利を放棄するようなこともあります。
残念ながら、このようなケースは近年増えているようです。
相続放棄とは?
相続放棄とは、「相続権を持つ法定相続人が、被相続人の残した財産の一切の相続を拒否すること」です。
一切の相続を拒否するため、相続財産の中の「プラスの財産」(現金や不動産)も、「マイナスの財産」(借金、ローンなど)も含めた全て、一切を受け取らないことです。
相続放棄のメリット
相続によって相続人が被る不利益を防げることです。被相続人(故人)が残した借金やローンを肩代わりする必要はありません。
相続放棄のデメリット
タイミングを見誤ると損をしてしまうことです。相続した場合、デメリットしかないと考えて相続放棄をしたら、あとになってプラスの相続財産が見つかっても、相続の権利はもうありません。
このような事態を防ぐため、財産の調査はしっかりしておかなくてはなりません。
相続放棄をするには?
では、相続放棄の手順をみていきましょう。
相続放棄を決める前に
相続人となったら、まずは相続財産の調査を行いましょう。 相続するかしないかは、相続財産のうち「プラスの財産」と「マイナスの財産」、どちらが多いのかが重要になります。
慌てて決めず、故人が利用していた金融機関や所有している不動産などの調査を念入りに行いましょう。
相続放棄にはタイムリミットがあります。相続放棄の申し立ては、相続開始から3ヶ月以内に行わなくてはなりません。
財産の把握は、四十九日の法要を目途に行うとよいでしょう。四十九日を過ぎるということは、相続が始まってから既に2ヶ月が経つということです。
つまり、四十九日をすぎての調査では実質1ヶ月しかないことになります。
そのため、四十九日あたりまでに、財産を把握して期限を見こした進め方や大枠の方向性を検討しておくと、あとがスムーズです。
相続放棄は、相続人が複数名いるなかでも、1人だけ放棄することができます。 ただし、放棄をする場合には、次点の相続人への報告と説明が必要です。
もしも全員が相続を放棄する場合には、配偶者、第一位(子供、孫)、第二位(両親・祖父母)、第三位(故人の兄弟)が放棄の手続きをする必要があります。
相続放棄に必要な書類
調査の結果、相続放棄することを決めたら、以下の書類を用意しましょう。
基本の書類
相続放棄をする場合に必要な基本の書類は、以下の3種類です。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申し立てる人の戸籍謄本
「相続放棄申述書」とは、相続を放棄するという意思を書いた書類です。所定の用紙に必要事項を記入します。相続放棄申述書の用紙は、家庭裁判所ならどこでも手に入れることができます。また、ホームページからダウンロードできます。
申立人が故人の配偶者の場合
基本の書類に加え、「被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本」が必要です。
申立人が故人の子供や孫の場合
基本の書類に加えて、下記の書類が必要です。
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 申立人が孫の場合、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申立人が故人の両親や祖父母(直系尊属)の場合
基本の書類に加え、下記の書類が必要です。
- 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子供で死亡者がいれば、その子供の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡者がいれば、その者の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申立人が故人の兄弟姉妹、甥姪の場合
基本の書類に加え、下記の書類が必要です。
- 被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子供で死亡者がいれば、その子供の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 申立人が甥姪の場合、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
相続放棄を決めたら、「被相続人(故人)の住民票の届出のある場所を管轄する家庭裁判所」へ相続放棄を申し立てましょう。
相続放棄の申し立ては、原則として本人が行います。相続人が未成年の場合は、親などの法定代理人によって申し立てます。
相続放棄は、必要な書類さえ全て揃っていれば郵送でも手続きできます。
ただし、裁判官が審理するにあたって面接などを求めてきた場合など、裁判所へ出向く必要が出てくるケースもあります。その場合は必ず従いましょう。
相続放棄の承認まで
相続放棄申し立て後10日ほどすると、家庭裁判所から相続放棄に関する照会書が送られてきます。送付書に必要事項を記入し、家庭裁判所へ返送しましょう。
そのあと、さらに10日ほどで家庭裁判所から相続放棄の手続きが完了したことを知らせる「相続放棄申述受理通知書」が送付されてきます。
これにより、相続放棄が正式に認められたことになります。
「相続放棄申述受理通知書」は、もし紛失しても再発行はしてもらえませんので、なくさないよう保管しましょう。
ただ、通知書を紛失してしまった場合でも「相続放棄申述受理証明書」は別途発行してもらえますので、利用するとよいでしょう。
相続放棄の期限を過ぎてしまったら、どうすればいい?
相続放棄の申し立て期限は、相続の開始(故人が亡くなった日)から3ヶ月以内です。
しかし、相続財産の財産調査がスムーズに進まなかったりして、期限以内に相続放棄するかどうか判断するのが難しい場合があります。
そんな時には、どうすればよいのでしょうか?
3ヶ月の期限を過ぎそうな場合
故人の財産調査が困難など、やむをえない事情で期限以内に相続放棄の判断が難しい場合には、「相続放棄のための申述期間伸長の申請」を家庭裁判所へ行いましょう。
伸長とは、延長という意味と考えてよいでしょう。ただし、申請は相続開始を知ってから3ヶ月以内に行わなくてはなりません。
申立てをするには、以下の書類が必要です。
- 申立書
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 利害関係人からの申立ての場合は利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本等)
- 伸長を求める相続人の戸籍謄本
相続放棄申立人と故人(被相続人)との関係によっては、この他に書類が必要となります。
・申立人が故人の配偶者……被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本」
・申立人が故人の子供や孫……被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、申立人が孫の場合、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・申立人が故人の両親や祖父母(直系尊属)……被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、被相続人の子供で死亡者がいれば、その子供の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、被相続人の直系尊属に死亡者がいれば、その者の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・申立人が故人の兄弟姉妹、甥姪の場合……被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、被相続人の子供で死亡者がいれば、その子供の出生時から死亡時までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本、申立人が甥姪の場合、本来の相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
3ヶ月の期限を過ぎてしまった場合
申請期間のリミットを過ぎてから相続放棄を行うことは、非常に難しくなります。
できれば早めに財産調査を行うか、リミットを過ぎる前に伸長を申し立てるのがベターです。
しかし、リミットを過ぎてしまった場合でも、事情によっては相続放棄が認められる可能性があるので、弁護士など相続に強い専門家に相談しましょう。
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